香川県の男性(75)は検診で前立腺がんが見つかった。香川大泌尿器科の説明では、がんが小さく、細胞の悪性度が低いので、治療はなにもせず、定期検査で経過を見る待機療法でも良いと言われた。予想外の対処法だったが、手術には後遺症もあるので、様子を見ることにして3年が過ぎた。
前立腺がんの検診では、採血によるPSA(前立腺特異抗原)検査が行われる。正常値は「4」以下だが、肥大や炎症でも上がる。外側から前立腺に刺した針で細胞を取り、顕微鏡で調べる生検を行う。
この検査の普及で、早期の前立腺がんが見つかる人が増え、新たな問題が生まれた。
前立腺がんは、進行が遅く、命を脅かす場合でも発見から平均10年かかる。また、ほかの原因で亡くなった人を解剖すると、70歳以上の20―30%に前立腺がんが見つかる。がんと言っても、おでき同様に、危険のないものが一定数あるのだ。
ところが治療となると、手術では、男性機能の低下が半数に見られ、5―10%の人には尿漏れが残る。放射線治療でも排尿や排便の障害が起こる場合がある。
注射や飲み薬によるホルモン療法はがんを殺すのではなく抑えるものだが、やはり男性機能は失われたり、顔がほてったりする。治療をしなくても安全ながんを見分けられればありがたい。
香川大泌尿器科教授の筧善行さん(50)は「病巣が小さく、増殖速度が遅いものはある程度、見分けることができます。しかし100%完全ではないので、慎重な経過観察が必要になります」と説明する。
待機療法(無治療経過観察)では、2、3か月に1度、PSAをはかり、それを基に半年ごとに、増殖のスピードを判断する。筧さんたちは、待機療法が可能な基準を設定している。
〈1〉がんの進展度 PSAは10以下が望ましい。前立腺内にとどまるがんで、直腸から指を入れてもがんに触れない「T1c」という段階。患者の6割はこのタイプ。
〈2〉大きさ 生検では通常、針を6―12か所に刺す。このうちがんが出たのが2本以下が対象になる。それを超えると、大きいと判断される。さらにがんが出た組織を顕微鏡で見て、がんが占める占拠率が50%以下なのも条件。
〈3〉悪性度 がん細胞の悪性度を示す10段階の「グリーソンスコア」があり、顕微鏡による観察で診断する。数字が高いほど悪性度が高い。6以下が対象。
前立腺がんと言われた時に、医師にこの3つの条件を質問すれば、待機療法が選択可能かどうかわかる。
経過観察中に、増殖が早く、2年以内にPSAが元の数値の2倍になりそうなことが予想される時は、手術や放射線などの治療を勧める。研究を目的に登録した50人では、3年で35%が、経過観察を中止し治療を受けた。
筧さんは「待機療法には、治療をしないですむか、先延ばしにできる利点があります。しかし、一部の患者さんでは、治療の開始が遅れる場合があることも留意して下さい」と話している。

