肺がん治療薬「イレッサ」の有効性は?

「がん細胞を狙い撃ちする」。鳴り物入りで登場した肺がん治療薬「イレッサ」(製造元・アストラゼネカ)について、有効性に疑問符がつくデータが報告された。患者はどう考えればよいだろうか。

東京都の主婦(52)は2003年10月に肺がんが見つかった。既に肺全体に広がり、息苦しい。手術はできず、「余命は4か月」と医師。昨年7月、イレッサの服用を始めた。がんが小さくなり、呼吸も楽になった。「半年以上たった今も旅行ができるほど元気。この薬のおかげです」

一方で、副作用に苦しむ人もいる。肺がんが再発した三重県の会社員、清水英喜さん(49)は2002年9月にイレッサを飲み始めた。その1か月後に熱が出て、効果がないまま服用を中止した。重い肺炎の間質性肺炎を起こしており、一時、心停止に陥った。
この副作用で亡くなった患者も多く、「回復したのは運が良かったとしか思えません」と振り返る。

「夢の新薬」か「危険な薬」か――。評価が分かれる中、海外での臨床試験で、「イレッサには延命効果がみられなかった」との衝撃的な結果が昨年12月、公表された。米食品医薬品局はイレッサの使用を規制する方針を打ち出したのに対し、厚生労働省の検討会は「現時点で使用を規制する必要はない」との見解をまとめた。

この事態をどう見るか。

今回の試験に日本人は参加していないが、参加者のうちマレーシアやフィリピンなど東洋人に限ると延命効果がうかがわれた。国立がんセンター東病院副院長で日本臨床腫瘍学会理事長の西条長宏さんは「この薬の奏功率(がんが縮小する割合)は、東洋人以外の約10%に対し、東洋人は約30%と大きく違い、日本人でも縮小効果が高い。非東洋人の多い今回の臨床試験で延命効果がなかったからといって、慌てる必要はない」と話す。

これに対し、薬の作用に詳しい医薬品・治療研究会代表の医師、別府宏圀さんは「試験結果から一部だけを抜き出して『東洋人に延命効果』というのは、解析方法として信頼度が低い。そもそも日本人への延命効果は分かっていない」と指摘する。

現時点では、既にこの薬を服用し、効果が表れた患者は、副作用に注意しながら服用を続けてよいと考えられる。毎日1錠を原則として効果がある限り飲み続ける。

重い肺炎の副作用は服用を始めて1か月以内に起きる危険性が高いが、4か月目に急に発症した例もある。息切れ、呼吸困難、せき、発熱などの症状が出たら、すぐに主治医に連絡する必要がある。

一方、新たにこの薬を使う場合、判断は簡単ではない。注目されるのが、薬の効果を予測する遺伝子検査だ。

イレッサは、肺がん細胞の表面にあるEGFR(上皮成長因子受容体)と呼ばれるたんぱく質に作用し、がんの増殖を抑えるとされる。この受容体に遺伝子変異があると、薬が効きやすいとの研究がある。
日本人、特に女性や、非小細胞肺がんの一種、腺がんの患者は、遺伝子変異の割合が高いとされる。この検査で事前に効果を判定しようというわけだ。ただ、まだ研究段階の検査であるうえ、実施できる病院も限られている。

効果や副作用の仕組み、日本人での延命効果など、この薬には未解明な部分が多い。それを十分に理解した上で治療法を選びたい。

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