女性の経口避妊薬ピル(低用量ピル)には、本来の目的である避妊のほかにも様々な効用(副効用)があるのをご存じだろうか。日本産科婦人科学会などがピルの使用指針を改訂し、副効用の情報が初めて盛り込まれた。さらに、煩雑だった処方前の検査が簡略化され、従来より使いやすくもなった。
ピルは、卵巣から分泌される女性ホルモンの卵胞ホルモンと黄体ホルモンを合わせた錠剤で、卵巣からの排卵を抑制する。医療機関を受診したうえ、医師の処方を受ける。
21日間連続して服用し、その後7日間服用を休むか、女性ホルモンが含まれない錠剤を飲む、というサイクルを繰り返す。飲み忘れがなければ、避妊に失敗する確率は0・3%で、コンドーム(2%)と比べても効果は高い。
ただ、肥満や喫煙習慣、高血圧などがある女性の場合、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞などが起こりやすくなる。このため、1999年に作られた使用指針では、血液や血圧検査、乳房の触診、子宮などの状態の診察(内診)、性感染症検査など10項目以上の検査を推奨していた。
新指針では、必須の検査項目が血圧測定と問診だけになった。他の検査を全員に行う科学的な根拠は乏しいとされたためで、抵抗感のある内診などが省かれた。
問診票で、喫煙の有無、服用中の薬剤やサプリメント(栄養補助食品)、持病などをチェックし、血圧を測る。喫煙習慣があれば本数を減らす節煙を、高血圧なら、その治療を行う。
ピルに詳しい日本家族計画協会クリニック(東京)所長の北村邦夫さんは「新指針に基づき問診や検査をして投与すれば、脳梗塞などの危険を避けられる。検査項目を絞ったことで、受診者の心身や経済的にも余計な負担をかけずに済む」と説明する。
ピルの使用者は、欧米では出産可能な女性の半数程度とされるが、日本では2%にとどまる。指針の改訂で今後増える可能性もある。
注目されるのが、ピルが避妊以外にも有効な点だ。
生理痛や、出血量が多い過多月経によって、仕事や家事などで不自由する女性は少なくない。ピルを使うと、こうした症状が和らぎ、月経時を快適に過ごせるようになるほか、顔のにきびの治療に使われる場合もある。ピルを使うことで月経周期が安定し、旅行や受験などの計画が立てやすくなることも期待できる。
厚生労働省研究班が2004年度に行った調査では、ピル使用者の6割が、過多月経や生理痛の改善などのために使用していた。海外のデータでもこうした副効用が裏付けられている。
旧指針では、子宮頸(けい)がんの発症率など副作用の記載が中心だったが、新指針では、予防や改善が期待できる14項目の副効用も盛り込んだ。
指針策定に携わった弘前大産婦人科教授の水沼英樹さんは「旧指針では、副作用を心配するあまり不必要な検査まで書かれ、薬を使いづらい印象があったが、新指針でピルの利点と欠点を示したことで、バランス良い情報提供ができる」と話す。
ただ、ピルを使う際には、自らの健康管理を怠らないことが不可欠だ。ピルには、コンドームのような性感染症予防の効果はなく、必要があれば性感染症の検査や婦人科検診を受けたい。
ピルには保険がきかず、検査の内容や各医療機関が設定する指導料などで費用は異なる。一般に月に数千円程度の負担になる。
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