薬が効かない超多剤耐性結核(XDR-TB)

従来の薬が効かず、世界保健機関(WHO)が警告を発している治療不可能な新型の結核菌が最近、日本国内の患者から検出された。日本では国民病とまでいわれた結核は、戦後の医療技術の進歩でもはや「過去の病気」と思われがちだが、実は日本は今なお結核の「中蔓延国」だ。

「日本でも薬の効かない手ごわい結核が各地で出ていることは知られていた。今回の調査でその存在が初めて統計的に明確になった。非常に重大な事態だ」
前結核研究所長の森亨・国立感染症研究所ハンセン病研究センター長はこう話した。

薬が効かない結核は超多剤耐性結核(XDR−TB)と呼ばれる。結核に効き目が強い第一選択薬のうち、イソニアジドとリファンピシンに耐性をもつものは、多剤耐性結核(MDR−TB)と名付けられているが、XDR結核はこの二種類に加えて、補助的な第二選択薬(六種類)のうち、三種類以上に対して耐性があるものを指す。

国内のXDR結核の存在は結核研究所の調査で明らかになった。九十九カ所の結核治療施設の入院患者三千百二十二人の結核菌を調べたところ、MDR結核が五十五人(1・8%)から見つかり、うち十七人(0・5%)は第二選択薬も効かないXDR結核だった。

XDR結核はどのようなメカニズムで出現したのか。「自然に発生したものではなく、人為的にできた疾病」と森氏は解説する。
結核の治療期間は最短で六カ月間を要する。しかし「薬を服用し始めて二週間ほどで症状が消え、仕事ができるほどになるため、途中で薬をやめてしまう患者が続出する。結核菌が耐性をもつようになるのは、治療の中断が主な原因になっている」。

とすると患者の側に問題があるように思えるが、「症状が出なくなれば、薬をやめたいと思うのは人間の普通の反応。服用の中断は患者だけの責任ではなく、飽きさせないよう患者に服薬教育をしていない医療機関の責任でもある」と指摘する。

森氏の推定では、MDR結核患者のうち七割は治癒可能だという。残りの三割が手の施しようのないXDR結核で、日本全体で五百人くらいいるとみられる。

XDR結核に対する抗結核薬はまだ開発されておらず、今のところ「化学療法を導入する前の自然治癒に頼る以外にない」。つまりサナトリウムの中で滋養分のあるものを食べ、日光浴をして、時間をかけて養生するという、文豪トーマス・マンの小説『魔の山』に出てくる情景描写と本質的に変わらない。「運がよければ自然治癒で治るが、そうでなければ平均五年で全員死亡する」という。

わが国の結核のピークは一九四〇年代で、戦後、抗生物質を用いた化学療法の進歩や国民の栄養状態の改善で患者は激減した。それでも「過去の病気」というにはほど遠い現状がある。

昨年、新たに結核患者として登録されたのは二万八千人。六年連続で減少したものの人口十万人当たりの患者は二二・二人で、WHOの定義では日本は結核の「中蔓延国」に位置づけられる。ちなみに米国は日本の四分の一の罹患(りかん)率だ。

森氏によると、日本人全体の15%が結核に感染しているというから驚くべき数字である。とりわけ高齢者の感染率が高く、六十歳代は30%、七十歳代は60%、八十歳代は70%以上という。
結核感染者中、一生のうちで発症するのは一割に満たないが、結核ピーク時に感染したこれら高齢者が“分母”となり、結核菌を拡散しているために、日本はいつまでたっても中蔓延国から抜け出せないでいる。

森氏は「米欧諸国では結核患者の半分以上が外国人で占められており、自国だけで克服するのは不可能という考え方が定着している。日本ではまだそういう状況になっていないが、結核治療の分野では人材や技術の蓄積もあり、外国の結核対策に積極的に貢献していくべきだ。外国への支援は、いずれは自分のところに戻ってくるのだから」と提言する。

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