東京都のAさん(55)は今春、近くの病院で受けた大腸内視鏡検査で、S状結腸に大きさ15センチの平たい大腸がんが見つかり、外科手術を受けるため国立がんセンター中央病院(東京都中央区)を受診した。
しかし検査の結果、がんは粘膜下に深く食い込んでいない早期と分かり、肛門(こうもん)から入れた内視鏡で切除できると判断された。電気メスで、がんを一度にそぎ取る「内視鏡的粘膜下層はく離術」(ESD)を受け、3日後には退院することができた。
大腸がんの進行度は大きさではなく、表面の粘膜から下にどれだけ食い込んでいるかで判断される。がんが、粘膜の下の粘膜下層に1ミリ以上食い込んでいると、すでにリンパ節に転移している可能性があるため、がんを含む腸管を大きく切除する手術が必要になる。
一方、がんの表面の模様などから、粘膜下層への食い込みが1ミリ未満にとどまると分かれば、内視鏡切除の対象となり、手術を避けられる。この場合、ポリープ型のがんであれば、根元にかけたワイヤに高周波電流を流して焼き切る「ポリペクトミー」が行われる。
また、平坦(へいたん)ながんであれば、粘膜下に生理食塩水を注入して病変を隆起させた後、ワイヤで焼き切る「内視鏡的粘膜切除術」(EMR)で切除できる。
ただ、腸管を傷つける危険などからワイヤの大きさには限界があり、がんの大きさが2センチを超えると一度に取り切れず、分割して切除せざるを得ない。
分割切除を行うと、がん細胞が腸に残る恐れがある。実際、分割切除を行った患者の20%近くに再発が起こる。再発しても、早期に発見すれば再び内視鏡で切除できるが、患者の心身に大きな負担を強いることになる。このような問題から、特に直径4センチ以上になると、早期がんでも切除手術が選択されていた。
そこで登場したのが、ESD。がんを長時間浮かび上がらせるため、ヒアルロン酸を含む粘度の高い液体を粘膜下に注入し、ITナイフやBナイフと呼ばれる特殊な形状の電気メスで周囲に切り込みを入れ、がんを一度にそぎ取ってしまう。
この治療法は、胃がんでは普及しているが、腸壁が薄い大腸では、電気メスの誤操作などで腸管に小さな穴(穿孔)が開きやすく、あまり行われてこなかった。しかし、近年の器具や手技の進歩で、導入する病院が増えてきた。
がんをそぎ取った部分の腸管は、厚さ1ミリほどになるが、数週間で正常な粘膜に覆われて回復する。治療2日後にはおかゆを食べられ、3日後には退院できる。
同病院では今年9月までに、直径2センチ以上の早期大腸がん患者200人以上にESDを行い、再発をゼロにとどめている。
もし通常の手術を行うと、直腸がんでは、しばらく頻便に悩まされることが多い。結腸がん手術でも、おなかの張りや痛み、排便リズムの乱れなどが起こることがある。ESDによって手術が避けられるメリットは大きい。
ただ、電気メスの操作を誤ると穿孔がおき、放置すると腹膜炎につながってしまう。同病院内視鏡部医師の斎藤豊さんは「安全に行うには高い技術が求められる」と話す。
医師の技術差が大きい最新治療だけに、治療経験が豊富な病院を選びたい。

