様々な細胞に分化する幹細胞を難聴のラットの内耳に移植し、聴力を回復することに、厚生労働省研究班(主任研究者=松永達雄・国立病院機構東京医療センター室長)が成功した。
難聴や激しいめまいがおこるメニエール病の治療法の開発に道を開くもので、米病理学誌最新号で報告した。
音を脳神経に伝える内耳には、音を電気信号に変えるのに必要な細胞(線維細胞)と信号をセンサーのように感知する細胞(有毛細胞)がある。
難聴は、こうした細胞が何らかの原因で死んでしまって起こる。しかし、センサー役の有毛細胞に幹細胞を移植しても、聴力は回復しなかった。
松永室長らは、有毛細胞が生きていて、線維細胞だけが死んでいる難聴に着目。線維細胞を人工的に死滅させたラットの内耳に、骨髄から採取した幹細胞を移植し、聴力が回復するか試した。
その結果、半数のラットで幹細胞が生着し、線維細胞と同じたんぱく質を作ることを確認。
2週間後、聴力を比較したところ、何もしない7匹のラットの聴力の自然回復は平均37%だったのに対し、幹細胞が生着したラット6匹は平均60%まで向上した。線維細胞の障害や異常は、健康な人の聴力が突然落ちる「突発性難聴」や、メニエール病に関係していると指摘される。
松永室長は「慢性化した難聴でも、音を感じる細胞や神経が生きていれば、幹細胞の移植で聴力が回復するかもしれない」と話している。(YOMIURI ONLINE)
メニエール病とは?
メニエール病とは、聴覚や平衡感覚をつかさどる内耳の障害により、耳鳴りや難聴をともなう回転性のめまい(ぐるぐる回る感じがして立っていられない)が繰り返し起こる病気です。
発作は数時間でおさまりますが、繰り返していくうちに難聴だけが回復しなくなり、進行していきます。
内耳にリンパ液がたまりすぎるのが原因のひとつとされていますが、どうしてリンパ液がたまるのかはわかっていません。ストレスや過労が発作の引き金になるといわれています。
なおこの病名は、耳の病気で起こるめまいを発見したメニエールというフランス人医師に由来しています。
問診により上記の症状があれば、メニエール病が強く疑われます。平衡機能検査、頭部CT検査、耳のX線検査などが行なわれる場合があります。
メニエール病の治療
発作が起こったときは、横になって安静にします。薬物療法としては、鎮静薬、ビタミン剤、血管を拡張するための薬などを用います。
難聴が進行する場合は、内耳のリンパ液を取るための手術を行ないます。