網膜で光を感じる視細胞を、人間の胚性幹細胞(ES細胞)から効率よく作り出すことに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センターの高橋政代チームリーダーらが成功した。
病原体に感染する恐れのある動物の細胞を作製に使う必要がなく、新型万能細胞(iPS細胞)にも応用できる可能性が高い。再生医療の実現に近づく成果で、米科学誌ネイチャー・バイオテクノロジー電子版で発表した。

目に入った光は視細胞で感知され電気信号に変えられ、視覚情報として視神経を通じて脳に伝えられる。研究チームは、マウスやサルのES細胞と同じ方法で人間の網膜の大本となる前駆細胞を作製。2種類の化学物質を加え、培養期間を延ばしたところ、20〜30%が視細胞になった。培養法を変えることで、視細胞に栄養を供給する網膜色素上皮細胞も高い効率で作ることができた。
研究チームは、マウスなどのES細胞から視細胞を作り出していたが、マウスの胎児の網膜細胞と一緒に培養するため、未知の病原体に感染する危険性があるうえ、作製効率も数%と悪かった。
視細胞や色素上皮細胞が徐々に損傷し、失明の恐れがある網膜色素変性症や加齢黄斑変性は、今のところ完治の方法はない。(YOMIURI ONLINE)
ES細胞とは?
生体の組織や臓器の元となる細胞のことで、幹細胞、または胚性幹細胞とも呼ばれます。受精卵が細胞分裂を繰り返し、ある程度の細胞塊になった頃に取り出して培養することで、様々な組織や臓器の細胞に分化する能力を持ったES細胞を得ることができます。