慶応大医学部の倫理委員会が、がん治療による副作用で不妊になるのを防ぐため、事前に卵巣組織の一部を凍結保存し、治療後、体内に戻す臨床研究を承認したことが30日わかった。白血病や乳がんなど幅広いがんを対象にしたもので、日本産科婦人科学会の倫理委員会で承認が得られ次第、治療をスタートさせる。
がん治療で使う抗がん剤や放射線は、卵巣や精巣機能にダメージを与える。不妊を防ぐため、事前に精子や卵子、受精卵を凍結保存する治療は、これまでも国内で実施されてきた。ただ、卵子の場合、採卵に時間がかかり、がん治療を始めるのが遅くなるうえ、一度に採れる卵子の数も限られる。卵巣組織の凍結はすぐ行え、数千個分の卵子を保存できるという長所がある。
慶応大の倫理委員会が研究を承認したのは昨年7月。申請した産婦人科の久慈直昭講師によると、対象となるのは、卵巣の手術が、がん治療に影響を与えないと主治医が判断した患者で、未婚女性も対象となる。自費診療扱いで、患者の負担は30万〜50万円ほどになる。
卵巣は親指の先ほどの大きさで、左右に二つある。体への負担が少ない腹腔(ふくくう)鏡手術などで表面を切り取り、零下196度の液体窒素で凍結する。がん治療の後、患者が妊娠を希望した時点で、体内に残る卵巣や腹部の周辺に再び戻す。うまく元の卵巣にくっつけば、自然排卵での妊娠も可能という。
ただ、治療法は確立しているとは言えず、卵巣を凍結保存しておいた女性から子どもが生まれた例は、04年に世界で初めてベルギーで報告されて以降、数例しかない。しかも、生まれた子どもが凍結保存していた卵子によるのか、残っていた卵巣の卵子によるのか、分かっていない。凍結卵巣組織にがん細胞が残っていた場合、がんを再移植してしまう可能性もある。