「ムコ多糖症」男児に国内未承認薬を無償提供、臨床研究へ

骨の変形や臓器の機能障害が進行する先天性の難病「ムコ多糖症」と闘う岡山県総社市、秋山裕斗ちゃん(5)の治療のため、東京や大阪の医師7人が、国内未承認の酵素製剤を使って臨床研究する「治療検討班」(班長・折居忠夫岐阜大名誉教授)を発足させた。

製剤は、両親が寄付なども受け月額約400万円をかけて個人輸入してきたが、今後は検討班が米国の会社から無償提供を受ける。柔道整復師の父、武之さん(40)は「経済的な負担が軽くなり、安定した治療への道筋がついて夢のよう」と喜んでいる。

大阪の医薬品開発会社が国内販売に名乗り出ており、検討班は今後、臨床検査を通じて、製剤の有効性や安全性などのデータを国に提出する。厚生労働省も「承認が迅速に進むよう、最大限協力する」としている。

同症は、細胞をつなぐムコ多糖を分解する酵素不足のため、余分な糖が蓄積し内臓の機能低下などが起きる病気。7型まであるうち、裕斗ちゃんは国内では4人しかいない6型で、有効な治療法の研究が遅れていた。

武之さんは、米国で有効な製剤が承認されたと聞き、個人輸入を決意。昨年11月から岡山市内の病院で投与を始めた。半年間変わらなかった身長が約1センチ伸び、滑り台で遊べるようになるなど症状の改善もみられたが、製剤が高額で負担が大きいため、購入費の一部は幼稚園の関係者らが寄付を募って支えてきた。

検討班のメンバーの国立成育医療センター遺伝診療科(東京)の田中藤樹医師は「継続投与で承認に向けた貴重なデータが得られるはず」と期待している。



高齢者向けの「かかりつけ医」制度導入:在宅治療促進へ

厚生労働省は2日、75歳以上の高齢者向けに、公的な「かかりつけ医」制度を08年をめどに創設する方向で検討に入った。特定の開業医が患者の心身の状態を普段から把握し、外来診療から在宅ケア、みとりまで対応する。
患者が信頼できる医者をもつことで、入院から在宅治療への高齢者医療の転換を促し、医療費を抑制する狙いもある。患者への協力を求めると共に、かかりつけ医に支払う診療報酬を手厚くして普及をはかる考えだ。

06年の医療改革で、75歳以上の後期高齢者を対象とした新しい保険制度を08年に創設することが決まっている。厚労省は今秋までに独自の診療報酬体系の骨格をつくる予定で、すでに方針を固めている外来の「定額制」とともに、かかりつけ医の導入をその柱とする。

かかりつけ医の条件は(1)高齢者が抱える複数の疾患を総合的に診断・治療し、必要なときには心のケアも行える(2)介護保険のケアマネジャーらとも連携をとり、患者の生活に合わせた在宅療養のアドバイスができる(3)積極的な訪問診療を行う(4)痛みを緩和するケアなど末期医療に対応できる、など。

厚労省は、こうした条件を満たす医師を公的に認定。患者の合意を得たうえで「かかりつけ医」として扱い、診療報酬体系上、それ以外の医師に比べて優遇する。

続きを読む

人間の遺伝子を組み込んだコメ:米農務省が承認

人間の遺伝子を組み込んだコメの商業規模での栽培を米農務省が基本的に認めたと、米紙ワシントン・ポストが2日報じた。カリフォルニア州のバイオ企業が申請していた計画で、下痢止めの薬効があるタンパク質を抽出するのが目的という。

花粉が飛散してアレルギーの原因になったり、ほかの食用のコメに遺伝子が広がったりする可能性が市民団体などから指摘されている。

計画しているのはベントリア・バイオサイエンス社。抗菌作用のあるタンパク質ラクトフェリンやリゾチームをつくる遺伝子をコメに組み込み、中部カンザス州で約1300ヘクタール栽培する。収穫したコメはその場ですりつぶして有用成分を抽出、ヨーグルトなどの健康食品への添加用や薬として利用する。

申請を受けて環境影響評価をした農務省は「特に危険性はない」として基本的に承認、一般からの意見を聴く手続きに入った。

大腸がんの「内視鏡的粘膜下層はく離術(ESD)」

東京都のAさん(55)は今春、近くの病院で受けた大腸内視鏡検査で、S状結腸に大きさ15センチの平たい大腸がんが見つかり、外科手術を受けるため国立がんセンター中央病院(東京都中央区)を受診した。
しかし検査の結果、がんは粘膜下に深く食い込んでいない早期と分かり、肛門(こうもん)から入れた内視鏡で切除できると判断された。電気メスで、がんを一度にそぎ取る「内視鏡的粘膜下層はく離術」(ESD)を受け、3日後には退院することができた。

大腸がんの進行度は大きさではなく、表面の粘膜から下にどれだけ食い込んでいるかで判断される。がんが、粘膜の下の粘膜下層に1ミリ以上食い込んでいると、すでにリンパ節に転移している可能性があるため、がんを含む腸管を大きく切除する手術が必要になる。

一方、がんの表面の模様などから、粘膜下層への食い込みが1ミリ未満にとどまると分かれば、内視鏡切除の対象となり、手術を避けられる。この場合、ポリープ型のがんであれば、根元にかけたワイヤに高周波電流を流して焼き切る「ポリペクトミー」が行われる。

また、平坦(へいたん)ながんであれば、粘膜下に生理食塩水を注入して病変を隆起させた後、ワイヤで焼き切る「内視鏡的粘膜切除術」(EMR)で切除できる。
ただ、腸管を傷つける危険などからワイヤの大きさには限界があり、がんの大きさが2センチを超えると一度に取り切れず、分割して切除せざるを得ない。

続きを読む

病院、診療所の広告表現ガイドライン案

「絶対安全な手術です」「理想的な医療提供現場」は認めません−。4月から病院や診療所の広告規制が緩和されるのを前に、厚労省の検討会は2日、禁止される表現などを例示したガイドライン案をまとめた。最終案をまとめた段階でQ&Aを作成、同省ホームページに掲載する。

禁止されるのは(1)虚偽広告(2)比較広告(3)誇大広告(4)客観的な事実であることを証明できないもの−など。

例えば「絶対安全な手術」は医学上あり得ないため「虚偽広告」。「日本有数の実績を誇る病院」は「医療技術などが他の病院より優秀であるとの誤解を与える」ことから「比較広告」。「理想的な医療提供」や、主観的な場合が多い患者の体験談などは「客観的な事実を証明できない」としている。

広告とみなされる媒体は、チラシ・パンフレット類、ポスター・看板類、新聞・雑誌(記事は広告でないため除外)、バイブル本や治療法を紹介した書籍など。

メタボリック症候群に削減目標:厚生労働省 医療費抑制へ

厚生労働省は、40歳から74歳で約2000万人いると見積もっているメタボリック症候群の人とその予備軍を、08年度から実施する新しい健康診断(新健診)と保健指導で12年度末までに10%、15年度末までに25%減らすという目標をまとめた。
糖尿病や脳卒中など生活習慣病の患者を減らすとともに、医療費の伸びを抑えるのが狙い。

2月28日に開かれた新健診に関する検討会で示した。現在は40〜74歳で6割程度とみられる健康診断の受診率を12年度末には70%に引き上げ、健診で「問題あり」とされた人の45%が保健師や管理栄養士から食事や運動について指導を受けることで、目標を達成するとしている。

新健診では、企業や市町村が行っている健診を健康保険組合や国民健康保険などを運営するすべての保険者に義務づけ、健診の対象から漏れがちだった自営業者や専業主婦も対象とする。

現在、新健診の検査項目や実施方法の検討が進められており、07年度予算案ではデータ管理システム開発費などで約60億円が計上されている。
40歳以上の国民すべてをカバーする健診体制をどうつくるかなど課題は多く、医療経済の専門家からは健診が医療費の抑制に結びつくかどうかを疑問視する声も出ている。

関連記事:アディポネクチン受容体がメタボリック症候群治療の鍵

犬の乗り物酔い薬「セレニア」が承認:肥満治療薬に続いて

米食品医薬品局(FDA)は2月28日、犬の乗り物酔いを防ぐ薬を初めて認可したと発表した。
FDAは今年1月、犬の肥満治療薬を初認可したばかり。米国で深刻な問題になっている肥満や車社会への対応が、ペットにまで及んできた結果といえそうだ。

今回認可されたのは、米製薬大手ファイザーの「セレニア」で、錠剤と注射の2種類がある。いずれも購入には獣医師の処方せんが必要。

FDAによると、乗り物やほかの病気による嘔吐(おうと)の予防や停止効果がある。犬の嘔吐は脱水症状などの原因になり、時には死ぬこともある深刻な事態という。

国立循環器病センターのICU専属医師、全員退職へ

国立循環器病センター(大阪府吹田市)で、外科系集中治療室(ICU)の専属医師5人全員が、3月末で同時退職することが28日、分かった。
同センターは国内で実施された心臓移植の半数を手掛けるなど循環器病治療の国内最高峰で、ICUは心臓血管外科手術後の患者の術後管理・集中治療を受け持ち、診療成績を下支えしてきた。同センターはICU態勢の見直しを検討している。

同センターによると、ICUには5人の専門医が所属。所属長の医長を含む2人のベテラン医師が辞職を表明したのをきっかけに、指導を仰げなくなる部下の3人の医師も辞職を決めたという。 ベテラン医師2人は辞職の理由を「心身ともに疲れ切った」と説明しているという。

同センターのICUが対象とするのは、先天性心疾患や冠動脈・弁疾患、心臓移植、大血管疾患などさまざまな心臓血管外科系の難病患者。成人だけでなく小児も対象とし、外科手術後の患者の最も危険な時期の全身管理や集中治療を24時間態勢で行ってきた。

ICUの入院病床は20床で、年間1100症例を超える重篤な患者を受け入れ、常に患者の容体の急変に備え、緊張を強いられる環境にあった。同センターは、5人に残るよう慰留を続けているが、辞職の決意は固いという。

このため4月以降は、他部署からICUの専属要員を確保するものの、ICUでの患者の超急性期管理・集中治療は、執刀した外科チームが責任を持って行う態勢にすることを検討している。

同センター運営局は「特にベテラン2人に代わる人材はおらず、これまでのように執刀チームとICUの分業ができなくなる。しかし、手術件数を減らしたりICUでの管理が不十分になるなど患者に影響を与えるようなことはない」と話している。